主文
1 原告の請求を棄却する。2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,金282万5400円及び内金39万円に対する平成14年10月1日から支払済みまで年36パーセントの割合による金員を支払え。第2 事案の概要
1 判断の基礎となる事実(1) 訴外A(以下,「訴外A」という。)は,被告の父親である訴外B(以下,「被告の父親」という。)に対し,昭和59年4月17日,39万円を次の約定で貸し渡した。
@ 利息 年73パーセント
A 損害金 年73パーセント
B 弁済期 昭和59年5月から昭和60年9月まで毎月15日限り元金5000円と利息を支払い,過不足金は最終日に精算する。
C 特約 分割金の支払を1回でも怠ったときは,期限の利益を失う。
(2) 訴外Aは,被告の父親に対し,平成5年4月ころ,上記貸金につき返還請求訴訟を新宿簡易裁判所に提起した。同裁判所は,平成5年7月30日,被告の父親は訴外Aに対し,「金149万1408円及び内金39万円に対する平成5年4月1日から支払済みまで年36パーセントの割合による金員を支払え。」との全部認容の欠席判決(以下,「前訴判決」という。)を言い渡し,同判決は,平成5年8月25日ころ確定した。
(3) 被告の父親は,平成9年12月25日,死亡した。
(4) 訴外Aは,被告に対し,平成11年2月9日到達の書面で,被告の父親に対する上記貸金の存在及び同人が平成9年12月25日に死亡した事実を通知し,その弁済を求めるとともに,上記貸金債権を平成7年3月16日に訴外C(以下,「訴外C」という。)に譲渡した旨通知した。
(5) 訴外Cは,被告に対し,平成14年7月30日到達の書面で,前訴判決に表示された債権を平成11年10月5日に原告に譲渡した旨通知し,その支払を求めた。
(6) しかし,被告はその支払をしないので,原告は,被告に対し,時効を中断するため,前記貸金残余の支払を求めて本件訴訟を提起した。
(7) 本訴状副本は,平成14年11月3日,裁判所から被告に送達された。
(8) 被告は,第1回口頭弁論期日(平成14年11月27日)に出頭し,原告の前記(1)から(5)の主張に対し,訴外Bの子であることを認め,その余の事実は知らないと述べた。
(9)@ そこで,原告は,第2回口頭弁論期日(平成14年12月16日)において,被告の父親が死亡した事実を証する書面として同人の除籍謄本及び被告の父親に対する前記貸金債権の存在を証する書面として前訴判決正本等を提出し証拠調べを求めた。
A 前記証拠調べ終了後,被告は,直ちに,弁護士会の法律相談を受けた。
(10) 被告は,平成15年1月20日,東京家庭裁判所に対し,相続放棄の申述をし,平成15年2月13日,受理された。
(以上の各事実は,当事者間に争いのない事実,当裁判所に顕著な事実,証拠及び弁論の全趣旨により認められる。)
2 主たる争点
被告の相続放棄の効力の有無−熟慮期間(民法915条1項本文)の起算日はいつか−
3 主たる争点に関する当事者の主張と反論
(1) 被告の主張
@ 被告は,第2回口頭弁論期日(平成14年12月16日)において,原告から被告の父親の除籍謄本及び被告の父親に対する貸金債権を証明する判決正本を見て,初めて被告の父親が死亡したこと及び被告の父親が生前負った債務があることを知ったのであるから,同日をもって熟慮期間の起算日と解すべきである。
A したがって,被告は,平成14年12月16日から熟慮期間の3ヶ月以内である平成15年1月20日に相続放棄の申述をし,受理されたのであるから,本件債務を相続しない。
(2) 原告の反論
@ 訴外Aは,被告に対し,平成11年2月9日到達の書面で,被告の父親が平成9年12月25日に死亡した事実及び同人に対する貸金債権の存在を通知しているのであるから,同到達日をもって熟慮期間の起算日と解すべきである。
A したがって,被告は,平成11年2月9日から熟慮期間の3ヶ月経過後である平成15年1月20日に相続放棄の申述をし,受理されたのであるから,その申述受理は無効であり,被告は本件債務を相続する。
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第3 主たる争点に対する判断
1 当裁判所に顕著な事実,証拠(甲1から3,9,11,13,14,15,乙1,2,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められ,この認定に反する証拠はない。(1) 被告と父親との交際状況等
@ 被告は,昭和45年8月27日,父Bと母Dとの間に,東京都文京区で長女として生まれ,兄弟姉妹はいないこと。
A 被告は,生後まもなく父親が結核で入院したこともあって,岩手県釜石市にある母親の実家に引き取られていたところ,被告が4歳のとき,親権者を母と定めて両親が離婚し,そのまま父親やその親戚に会わなくなり,以後,被告は父親の生活歴について全く知らないこと。
中学生のころ,母親から,父親が見知らぬ子供を連れて母親に会いに来たということを一回聞いたことがあるのみで,父親がどこでどのような生活をしているか,その生死すら知る由もなく,父親の顔すら覚えていないこと。
B 被告は,両親が離婚後,母親の実家から母親のもとに引き取られ千葉県市川市に移り住み,母親と二人で生活をするようになり,その後,母親と東京都江東区内に住まいを移し替えて生活していたこと。
C 被告は,江東区立中学校を卒業後,すぐに就職し,結婚するまでの間,母親と二人で生活していたこと。
D 被告は,22歳のときに結婚したが,結婚式を挙げることもなく,23歳で離婚し,現在は,昼間は会社で一般の事務員として働き,夜はペットショップで販売員として働いていること。
(2) 訴外Aから,平成11年2月9日に,第2,1(4)の通知を受けたときの被告の状況
@ それまで,被告は,母親やその親戚から,父親の死亡や借金の話など聞いたことがなく,また,被告や母親に,父親が死亡したとか借金をしたとか伝える者なども全くいなかったこと。
まして,被告の父親が訴外Aから借金をした昭和59年4月当時,被告は中学1年生であり,また,死亡した平成9年12月当時,被告の父親は消息不明の状況であり,いずれも知る由もなかったこと。
A そのような状況のなかで,平成11年2月,突然,28歳の被告が,見ず知らずの他人である訴外Aから,父親の死亡や借金の通知を受け取ったこと。
被告は,前記のとおり,父親がどこでどのような生活をしているか全く分からない状況で調べようもなく,また,その通知書には父親の死亡を証する文書や借用書などが添付されているわけでもなく,母親に聞いてもそのようなことは知らないというし,そのような通知書は来ていないということを聞いて,通知書に書いてあることは,そのまま信じられるものではなかったこと。
また,その通知書には,父親に対する貸金の譲受人とされる訴外洪逸の電話番号が記載されているけれど,見ず知らずの他人に,父親の死亡や借金の有無を電話で確認したとしても,本当のことを聞けるかどうかも分からないと思い,気味悪いという気持ちとともに通知書を捨てたこと。
(3) 被告が父親の死亡と借金を知った時期
@ 被告は,平成14年11月3日に本訴状副本の送達を裁判所から受けたことから,平成11年2月9日に前記通知書を訴外Aから受け取ったときとは異なり,重く受け止めたものの,半信半疑の状態で第1回口頭弁論期日(平成14年11月27日)に出席し,訴外Bの子であることは認めたが,父親の死亡や借金の事実は知らないと答えたこと。
A 被告は,第2回口頭弁論期日(平成14年12月16日)に出席し,原告から提出された父親が死亡したことを証明する除籍謄本や父親に対する債権を証明する判決正本を見て,初めて父親が死亡し,生前負った債務がある事実を知ったこと。
2 以上のとおり,被告が,父親の死亡を知り,自己のために相続の開始があったことを覚知した日は,第2回口頭弁論期日である平成14年12月16日であることが認められる。
そうすると,平成14年12月16日から熟慮期間の3ヶ月以内である平成15年1月20日にされた被告の相続放棄の申述とその受理は有効であるといわざるを得ない。
3 よって,被告は,父親の相続に関しては,初めから相続人にならなかったとみなされ,父親の債務を相続しないから,その余の点(原告の弁護士法73条違反)について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。
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